DNAとRNAのちがい

あるオムニバス形式の講義が、第1週目の授業で、「DNAとその工学的応用」をテーマにしてくれて、ちょうどRNAやDNAに興味が沸いていた私は嬉しくなりました。その授業で、面白いと私が感じた話題を、紹介したいと思います。


 まず、DNAとRNAの違い、を問われたときに何が思い浮かびますか?私の場合、高校卒業時点くらいに知っていたことは、
1,二本の鎖でできているか、一本鎖か。
2,構成している塩基が、A,T,C,GかA,U,C,Gか。
3,糖の右下のところが、HかOHか。
でした。


 さて、ここで、DNAとRNAの構造を見てみましょう。今から説明したいことの差異が見やすくなるように、DNAだけでなくRNAも二本鎖にした図を掲載します。



 図を見ると、RNAの方が、groove(溝)が小さいことが分かります。つまり、RNAは、DNAと同じ構造をとろうとしても、DNAのようにぴんと伸びることはなく、DNAよりはつぶれたような構造になってしまいます。この違いを区別するために、図中の「A型」らせんと「B型」らせんという呼び名がつけられています。
 さて、どうして、このような違いが生じるのでしょうか。ポイントは、「HかOHか」です。



左がDNA、右がRNAヌクレオチドです。wikipediaより拝借。右下がHかOHか、というところだけ異なります。3’と書かれたCについているOHのHが外れて、次のヌクレオチドのリン酸部分とくっついて、DNAorRNAの鎖ができる感じです。



 下に、糖の部分を、上図の太線側から見た図(環のO原子が奥に来た図)を載せます。実際の糖は、上のように、きれいな五角形をしているわけではなく、くねくねした形をしています。高校化学ででてきたアルカンが、実際はくねくねしている、というのと同じ。

 DNAもRNAも上記の曲がり方が安定で、基本的に、反転することはなく、この曲がり方で存在します。まず、DNAの方を見てみましょう。右側の塩基とHが近づいた構造をしています。Hは、元素番号1の小さな原子なので、ほとんど反発しません。なので、左側のリン酸基と3’のOの部分の反発が大きく、これらができるだけ離れた構造をとります。一方、RNAの方は、リン酸基と3’のOの部分の反発もあるけれど、それ以上に、右側のOH基と塩基の反発が大きいので、これらが離れるような構造をとります。このように、この場合HかOHかで、糖の形が変わるのです。
 DNAもRNAもリン酸基から出た手と、3’のOから出た手が結合して、鎖を作っています。糖の形によって、上の図のように手の向きが変わります。だから、結合する部分の手が離れているDNAの鎖は伸びた構造を、逆にその手が近くなっているRNAの鎖は縮こまった構造をとります。


 次に、安定性の違いを紹介します。

 DNAは、遺伝情報を記録している分子です。だから、不安定では困ります。生体細胞内では、なかなか壊れません。
 一方、RNAは、DNAより不安定です。塩基条件下で簡単に分解されます。生体内では、役目を終えると、酵素によって分解されてしまいます。役目を終えたRNAが、ずっと細胞内に残っていても邪魔になってしまうので、分解された方が、むしろ好ましいのです。
 ここで、RNAが分解される原理を紹介します。


http://meddic.jp/RNA%E5%AE%89%E5%AE%9A%E6%80%A7 より

 RNAは、触媒下で、上の図のように、右下(2’)のところのOHが、リン酸と次のRNAヌクレオチドを切り離してしまいます。この反応によって、RNAは分解されます。DNAは、このOH基がないので、分解されません。分解のされやすさにも、「HかOHか」が関わっているのです。


 ところで、RNAの人工的な使い道として、RNAアプタマー(特定の分子と特異的に結合する核酸やタンパク質をアプタマーと呼ぶ)を用いたセンサーがあります。このセンサーの特徴として、RNAの、自分の鎖の中で、A,UまたはC,Gの塩基が水素結合して、決まった形を作れる点、が生かされています。実は、DNAも、人工的に一本鎖を作ることができます。なので、同じようにアプタマーが作れるはずです。実際、DNAアプタマーは存在していて、タンパク質を認識したりすることができます。
では、先ほど述べたように、RNAの方が不安定であるのに、なぜRNAでもアプタマーを作ろうとしているのでしょうか。
アプタマーを作るうえで、DNAにはないRNAの長所は、「A型らせんをとること」です。よりくにゃくにゃした形をしているので、DNAよりも細かい形の形成が可能なのです。RNAはDNAよりもフレキシブルだといえます。また、生体内には、RNAだけで機能を持つような分子がたくさんあるので、それを研究して、模倣し、アプタマーやセンサーに生かす、ということも考えられます。(逆に、DNAは、ぴしっとしたポリマーである点が工業的に生かされてたりするそう。)
RNAは不安定だとはいえ、緩衝溶液中で酸性条件下にして、分解酵素を完全にシャットダウンしておけば、分解されないようにしておくことができます。RNA分解酵素は、世の中にたくさん存在していて、例えば素手にも付着しているので、扱うときには手袋が欠かせません。


 DNAやRNAの分子構造に注目すると、それぞれのもつ現象に説明がつけられる、というのが面白いと感じています。たかが、HかOHか、でも侮れないことがよくわかりました。リン酸基も、DNAやRNAの構造・反応に大きくかかわっている、というような話を講義でちらっと聞いたので、もっと調べてみたいと感じました。